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インプットの作成

計算の条件を記載したインプットを作成しましょう。

ファイルの構造

計算のインプットは、.com という拡張子をもつテキストファイルです1。例として、アセトン (CH3)2CO\mathrm{(CH_3)_2CO} の分子構造を DFT 計算で最適化する場合のインプット acetone.com を示します。

%chk=acetone.chk
# opt b3lyp/6-31g(d)

Acetone

0 1
C -6.27467718 4.21555172 -0.03114370
O -5.58167994 4.32568112 -1.27714785
C -5.54139733 4.52344341 1.28760699
H -5.96074954 3.93286471 2.07517319
H -4.50263932 4.28993833 1.18103691
H -5.65131648 5.56145195 1.52288570
C -7.75426174 3.78905915 -0.00804376
H -7.95279598 3.14493335 -0.83905887
H -7.96132816 3.26893182 0.90381756
H -8.37668411 4.65698301 -0.07284000

各部の意味は以下の通りです。

%chk=acetone.chk                                # チェックポイントファイル (.chk) の名称
# opt b3lyp/6-31g(d) # 計算条件(計算タイプ・理論レベル)
# !!!空行を入れる!!!
Acetone # タイトル(任意)
# !!!空行を入れる!!!
0 1 # 電荷・スピン多重度
C -6.27467718 4.21555172 -0.03114370 # 元素記号・原子座標 (x, y, z)
O -5.58167994 4.32568112 -1.27714785
C -5.54139733 4.52344341 1.28760699
H -5.96074954 3.93286471 2.07517319
H -4.50263932 4.28993833 1.18103691
H -5.65131648 5.56145195 1.52288570
C -7.75426174 3.78905915 -0.00804376
H -7.95279598 3.14493335 -0.83905887
H -7.96132816 3.26893182 0.90381756
H -8.37668411 4.65698301 -0.07284000
# !!!空行を入れる!!!

おもな計算タイプ

構造最適化計算 opt

インプットファイルにて与えた初期構造をもとに、分子構造を最適化します。 インプットファイルを作成したら、たいていは一番最初に実行する計算タイプです。

振動数計算 freq

振動数を求めます。虚振動(アウトプットにおけるマイナスの振動数)の有無から、最適化によって得られた構造が安定構造であるかどうかを判断するなどできます。

時間依存密度汎関数法 td

TD-DFT 計算を実行します。opt とあわせると励起状態を計算できます。UV-Vis や CD スペクトルの理論計算が可能です。励起状態であれば発光スペクトルを予測できます。

ポテンシャルエネルギー面探索 scan

特定の構造パラメータを変化させ、エネルギーの変化を追跡します。scan キーワードによって実行される計算は、指定したパラメータ以外を変化させません(Rigid Scan)。スキャン計算と同時に構造最適化を実行する場合(Relaxed Scan)は、このキーワードの代わりに opt=modredundant を使用します。

理論レベルの選択

Gaussian は多くの計算アルゴリズムをサポートしていますが、有機化学ではもっぱら 密度汎関数法(Density Functional Theory, DFT) の利用になると思われます。

DFT の精度は、原子軌道を表す 基底関数系 basis_set と、電子エネルギーを表す 汎関数 functional の組によって決まります。インプットファイルにおいては、計算タイプの指定と同じ行に functional/basis_set の形で指定します。

おもな汎関数

B3LYP 系統がよく用いられています。

  • B3LYP
    • RB3LYP: 開殻系
    • UB3LYP: 閉殻系
    • CAM-B3LYP: 長距離相互作用の追加

おもな基底関数系

Gaussian をはじめとする量子化学計算プログラムでは、計算効率の向上のためにガウス型軌道 er2e^{-r^2} の足し合わせで原子軌道を近似します2

  • 6-31G
    • 6-31G(d): 水素原子以外で d 軌道を考慮
    • 6-31G(d,p): 6-31G(d) かつ水素原子で p 軌道を考慮
    • 6-31+G(d): 6-31G(d) かつ重原子やイオンのような電子局在化系に対応
    • 6-311G: 6-31G よりも価電子の計算精度を向上

また、Pd\mathrm{Pd}Pt\mathrm{Pt} のような重原子は電子数の多さから計算時間が飛躍的に伸びてしまうため、内殻電子を有効ポテンシャル(Effective Core Potential, ECP)で近似する手法が取られます。これは LanL2DZ がよく用いられます。

座標の指定

GaussView や Avogadro のような分子モデリングソフトウェアを使って分子を組み立てます。初期座標の精度は計算に大きく影響するので、真の構造がわかっている場合はできるだけ近づけるようにしましょう。

Footnotes

  1. 最近は .gjf という拡張子が広く使われていそうですが、この研究室では .com で運用しています。

  2. 水素原子の 1s 軌道関数は解析的に ere^{-r} で表され、これはスレーター型軌道と呼ばれます。